第1話「砂漠の豹」
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「あーあ。あのモルガの野郎に町の場所を教えてもらったはいいが、やっぱりこの日照りの中じゃきついなぁ」
 黒マントの男――カーデスが一人ぐちる。
 カーデスの目の前には見渡す限りの荒野。遠くにぽつんとひとつだけ小さい点が見える。恐らくあれがモルガの青年が言っていた町だろう。
「それに…ん?」
 再び愚痴ろうとした時、裾からはみ出た手袋が一部破れていることに気づいた。
 はぁ〜あとため息をしながら「ロットっつう町に着いたら買いかえるか」と独り言。
 そのとき、突然目の前の開けた視界がいきなりでてきた砂の山によって狭まった。
「な、これは…ガイサック!」
 砂の山から1機のガイサックがカーデスの声とほぼ同時にその姿を現した。
「ち、邪魔だぁっ!」
 カーデスはさっと身構えそのままガイサックのコクピットに向かってもろパンチを食らわせる。
 常人の腕ならその人の腕もコクピットのガラスの破片によって同時に破壊されていただろう。だが、カーデスの両腕両足はゴーレムのもの。当然のごとくコクピットのほうが圧倒的に破壊され、そのまま中へ入り、手当たり次第にコクピットの中を破壊していった。
 そして、そのままガイサックは機能停止、カーデスはそれに気づくといまにも爆発しそうなコクピットから早々に出て砂漠に仰向けになった。
「ったく、余計なことに体力使っちまった。」
 この状況では悪態しか出ないのだろう。ぶつぶつ言いながらもカーデスはロットという町へと再び歩を進め始めた。
 
「なんだこりゃぁっ!?」
 開口一番カーデスが叫んだ。
 彼の目の前にはロットの町の防御壁…であろう物が見渡す限り広がっていた。
「旅人さんかい?」
 声に気づいて振り向くと門番なのか、大きな扉の前にたたずんだ一人の男がこちらに向かっておいでおいでをしていた。
「ん、あ、ああ。まぁそんなところだ。」
「じゃ、こっち来て手続きを済ませてくれないか?なぁにちょっとしたサインみたいなもんだよ」
 勝手に話を進めていく門番にカーデスはすこし困った顔をして
「もしかして、ペンとか使う?」
 とばかばかしい質問をした。 「んー、まぁ読めるんだが、見ての通りで」
 といってカーデスはマントから手を出し、さらに手袋をはずした。そこには太い5本の指と同じく太い腕、でかい手のひら。というより人間のものではない。
「見ての通りさ。手がでかすぎて字なんてかけやしないよ。」
「ま、まさかあんた…。な、なら手続きなんて必要ない。ど、どうぞお通りください」
「ぇ?いいのか?」
「もちろんでございます」
 急に態度が変わった門番に不信感を持ちながらも門の向こうへと足をすすめた。
 呼び鈴代わりの電話で話しこむ門番に更に不思議がりながら。

「ご来訪、お待ちしておりました!」
 水をもらうため、とりあえず商店街の通りに向かおうと歩き始めたカーデスの目の前に突然正装の男がその後ろの何人もの男女とともに現れ、お辞儀をしてそう挨拶した。
「歓迎の準備はできております。ささ、こちらへ」
 さっきの門番の態度といい今度は歓迎?意味わからん。
 そんなカーデスの思いに反して彼はその男と何人もの男女に囲まれる。
 更にはその通りにある家々から人々が姿を現してきて、一斉に「わぁーっ!」と歓声が起こった。
「な、なんだぁっ!?」
 カーデスの叫びも空しく歓声にかき消され、彼は何十人もの人々に囲まれながら歓迎の場所へと連れられるのであった。

 そんな歓迎の輪の中から一人外れて数十メートル離れたベンチからカーデス達をじーっと敵視した目で見つめる女性がいた。
 黒髪のショートカット。瞳は蒼い。
 彼女は「ふん」と鼻を鳴らすとゆっくりとカーデスたちの後をゆっくりとつけていった。

「町の救世主の歓迎会スタートォッ」
 歓迎の場所であるホテルのでっかいパーティー会場につくやいないやカーデスは待ち構えていた人々によって更なる手厚い歓迎を受けた。
「きゅ、救世主だトォッ!?」
 当のカーデスはそれはもう今までにないほど驚いて目を真ん丸くしている。
 そしてそのまま、カーデスにとってわけのわからない歓迎会は始まった。
「プログラムナンバー1番。住人たちによる――」
「ちょっとまってくれぇっ!」
 歓迎会の司会であるさっき歓迎した男の言葉をカーデスのある意味悲痛な叫びがさえぎった。
 途端に会場が静まる。
「その、あの、一体なんなんだ?この救世主の歓迎会とやらは?俺は一体何が何なんだかわからないんだが」
「と、いいますと?」
 マイクを持ったまま司会もまた訳がわからないといった困惑の声音で答える。
「言葉のままだよ。俺はどうやらお前らが勘違いしている町の救世主だかなんだかじゃねぇ。ただの旅人だ。門番にもそういったはずだがなぁ。旅人だって」
「じ、じゃぁまさかあなたは義手を持っただけのただの旅人で…町を救いにきたクロノスフラッグではないと?」
「クロノスフラッグだって?俺はそんな善人じゃねぇぞ」
『……………』
 重苦しい沈黙が流れる。
 やがて、
「よかったら、事情を説明してくれないか?俺が義手を見せてクロノスフラッグだと勘違いさせて無意味な歓迎会をさせてしまったのには謝る。だからなんで俺のことをお前らがクロノスフラッグだと勘違いしたのか。その訳をさ」
 と、カーデスがその場にいる人々全員に対して質問をした。
「わかりました。こちらも確認を取らずに一方的にあなたを歓迎会にお招きしてしまったことをお詫びします。それに、この町の事情も少し説明しましょう。」
 司会もそれを了承して返した。
「実は、この町は昔から毎週のようにある野良ゾイドに襲われているんです。今までも数え切れないほどの賞金稼ぎや傭兵を雇ってきました。しかし、どれも皆同じで町の中心部の噴水広場まで入られてはしばらくたって去っていく。それの繰り返しだったんです。それで、わたしたちは数日前クロノスフラッグに依頼しました。そして今日、あなたがやってきた。砂漠でガイサックを生身で倒しましたよね?あれを物見やぐらで見ていた兵士があなたがクロノスの一員であると勘違いし、さらには門番の兵士も義手を見て勘違いした。そういうことだったんです。」
 クロノスフラッグとは治安を守る警察のようなもののことだ。
 クロノスのごく一部の幹部などはゾイドの腕を義手として扱う権利を持っている。
 一般人でゾイドの腕などを義手として使ってる人はほとんど無に等しいため、カーデスの腕を見て門番の兵士がクロノスと勘違いするのもごく当たり前のことだったのだ。
「成る程…。よくわかったよ。それにしてもがっかりさせてしまって…悪かった。改めて謝るよ」
 見ると歓迎会に出席している住人たちは皆暗い顔をしている。
「いえ、こちらにも勘違いした責務がありますから」
 といって司会の男は作り笑いをした。
「しかし…うーん…」
 暗い雰囲気の中、カーデスが今度はうなり声を上げた。
 少し悩んでいる感じの声である。
「よし、わかった!」
「え?何が、ですか?」
 突然の明るいカーデスの声に司会の男が素っ頓狂な声で返す。
「ここまで歓迎されてただでかえるわけにも行かないからな。歓迎された分引き受けてやるよ。その野良ゾイド退治。」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ。嘘はつかない。」
 その声に再び会場が熱狂の渦に包まれた。いっきにその場は明るくなり、そして歓迎会も引き続き行われるのであった。
「なぁ」
 にぎわう会場の中でカーデスが一人の青年に話しかけた。
「へ?あ、なんでしょう」
「すこし聞きたいんだが、どうしてこんな何もない場所で町が発展したんだ?」
「あ、はい。それはですねこの町はオアシスの水面の上にそれなりに厚いプレートで覆っていて、その上に家が建っているんです。 簡単に言うと、水面の上に氷の板を載せ、水をやや圧縮しているんですよ。そうして水が常に押し上げる力もあり、浮上している。だから、この町にはゴジュラスみたいな巨大ゾイドはないし、適さないんです」
「ふーん…。成る程、だから水が豊富なんだな…」
「その通りです。」
 自分に対して敬語を使われるのにちょっとばかし違和感を感じながらもカーデスは納得した。
「そういえばこの町、周りを防御壁で囲まれてるけど、あれは野良ゾイド対策か?」
「ええ。物見やぐらとか、門番とかがいるのも野良ゾイドが襲ってきたときにできるだけ早く非難とかできるようにするためです。どちらも全然効果はないんですけどね。まぁ、プレートの外に立っているので浸水の心配はない訳ですが。やっぱりなんか見た目が悪いのが難です」
 といって青年は苦笑いをする。
「へぇ…」
「あ、そうそう。この町ってたった1組の夫婦が作ったんですよ。それも貧乏人で食料もなくさまよっていたところを偶然このオアシスを見つけて。その後夫婦は町を作るアイデアを思いついて作ったらしいです。しかもそのあと彼らは億万長者になったらしいですよ。やっぱり運とアイデアって自分の運命をも左右するんですねー。」
「運とアイデアは運命をも左右する…」
「ええ」
 無意味な昔話を聞かされてすこしあきれていたカーデスだったが、青年の言った「運とアイデアは運命をも左右する」という言葉に少しだけ引っかかりを感じていた…。

 ―数十分後―
 彼は町中央部に位置する噴水広場。つまり毎回野良ゾイドが着てはしばらくして去っていく原因と思われる場所に来ていた。
 その名の通りその場所は噴水を中央に控えてその周りに人々がにぎわう広場がある、といった感じになっていた。
「っあー、ない。もう少し範囲を広げたほうがいいか…?」
 しかし、結局その日はなんの手がかりも見つけられずに終わってしまった。

 ―その日の夜―
 カーデスは歓迎会の行われたホテルに泊まっていた。
 何でも歓迎会の司会をしていた男が経営する高級ホテルらしく、しかも無料で泊まっていい、とのことだったからである。
「しかし…結局手がかりもなんもつかめられなかったな…。」
 ベッドに横になりながら独り言をつぶやく。と、そのときドアからノックが聞こえた。
「夕飯か?」
 そういって起き上がり、そのままドアを開ける。
 するとドアの向こうから現れたのは黒髪の女性、そう昼間ベンチからカーデスを見ていた女性だった。
「誰だ」
 相手に威圧感を与える声色で女に問うカーデス。
「エレミア・フリスト。」
「何しにきた。」
「話をしにきたのよ。」
 といってエレミアと名乗った女はそこにあったイスにどさっと座った。
「話だと?」
「ええ。具体的に言えば質問。あなたはどうしてアーティカロイドになったの?というね」
 アーティカロイドとはゾイドの腕などを義手に使用する人のことである。
「好きでなったわけではない…。それに、お前に教える筋合いもない」
「そう…、まぁいいわ、でも、あなたはそのゾイドの義手がある。ならクロノスじゃないの?」
「だから好きでなったわけじゃない!!それにクロノスなんてものでもない。」
 カーデスが怒鳴る。
「もういいよ!!自分自身でこのゾイド騒動を片付ける」
「なんだと…?」
 カーデスが言い返す暇もなく、彼女は部屋を出て行った。

 翌日、町の外で一機のホエールキングが降り立った。
 本物のクロノスフラッグのメンバーと共に。



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